永遠の宝物

 

 

 

突然のことだった。
その「第一報」は、蔵人さんとのデートより前に届いていた。

 

ナオトさんのプライベートな事情で、
葉月とナオトさんは会うことはもちろん、連絡を取ることもできなくなった。

「携帯メール止めて」
数行の緊急連絡メールだった。

 

もしかして、大変なことが起こっているのかも?

頭の中ではそれをわかっているんだけど、
葉月には実感として湧いてこなかった。
数行のメールだけでは詳しい状況もわからず、
葉月はとにかくメールをやめておとなしくしているしかないと思った。

 

その後、ナオトさんが会社からくれたメールで
状況が少し見えてきた。
「しばらくはWEBメールでしか連絡できない」というようなことが書かれていた。
「ほとぼりが冷めるまで」というようなニュアンスで。

 

 

この時の葉月は、自分でもビックリするほど冷静だった。
とにかく自分が何をするべきか、何をしなくてはいけないか、 ということを
自分の感情よりも先に考えていた。

そして葉月はナオトさんにお別れのメールを出したんだ。

 

オモテと裏は、オモテが基本。
何があっても裏のためにオモテを犠牲にするようなことはあってはなりません。
それは葉月の生き方にも反することです。

葉月からナオトさんにご連絡をすることはもうありません。
ナオトさんの携帯メールのアドレスは携帯から削除しました。

こういうことになってしまった今、もうナオトさんに気持ちを残していてはいけないって思っています。
葉月はナオトさんにはもう会わない覚悟を決めました。
5年先とか10年先とか、本当に「ほとぼりがさめた」時にまで会わないってことではないので、
その時は喜んでお会いするけど、
ナオトさんも一旦は葉月のことを心の中から消してください。
その方がお互いのためだと思います。
これは、短い間だったけど、ナオトさんとの楽しい時間を過ごさせてもらった葉月の、
ナオトさんの奥様に対する仁義でもあります。

今まで本当にありがとうございました。
ナオトさんのこと、これからもずっと大好きです。

 

こんな内容のメールだったんだけど、
送信しながら葉月は、これだけ冷静にこんなメールを送れる自分を「凄いな」って思っていた。
この冷静さは、もしかしたらナオトさんのことをあまり好きじゃなかったんじゃないの?なんて
自分に問い掛けたりするくらいのものだった。

メール送信のシグナルが鳴った時、
「あぁ、終わっちゃったんだな.....」って、
葉月は遠いところで思っていたような気がする。

 

 

その葉月のメールにナオトさんから返信が届いた。
そのメールを読んだ時.....それまで平然としていた葉月だったのに、
急に悲しさが込み上げてきて、涙が止まらなくなった。

 


葉月ちゃんとの楽しく気持ち良い時間は僕の宝物としてずっと心の中にしまっておきます。
忘れることは無いでしょう。

短い時間でしたが、葉月ちゃんと一緒に
とても貴重で楽しく気持ち良いときを過ごせた事に感謝しています。
僕の我侭な焼き餅に応えようとしてくれて・・・・
どうもありがとうございました。
そして、ほんとうにごめんなさい。

葉月ちゃんともう会えないかもしれないのは、物凄く悲しく辛いですが
お互いのために仕方ないとあきらめます。
葉月ちゃんのこれからの女人生が楽しく気持ち良く過ごせる事を応援しております。

今まで本当にありがとうございました。
愛してます、葉月ちゃん。
いつかまた、素敵な女性になっている葉月ちゃんに会える事を夢見ています。
なので、さようならは言いません。

 

1度目を読み終えた時、もうすでに葉月の目は涙でいっぱいだった。
この時になって初めて、葉月はナオトさんにはもう会えないんだってことを実感した。
このことの第一報が届いてからもう何日も経っていた。
本当に悲しいことっていうのはすぐにはわからないもので
後から押し寄せてくるものなんだなぁってことがこの時初めてわかった。

2度目を読もうと思ったけど涙がぽろぽろ落ちてきて、
ティッシュで目を拭きながらじゃないと読めなかった。
メールの向こうにナオトさんの顔が浮かんできて
文字を追おうとしてもどうしてもナオトさんの顔が出てきて
その度に涙が出てきてしまう。

マトモに読めないってわかっているのに
3度目も4度目も、ティッシュのお世話になりながら
何度も何度も読み返した。
思い出すのはナオトさんとの楽しい思い出ばかりだった。

 

本当に、涙が止まらなかった。
家には家族が全員いて、まだみんな起きてる時間だったのに
あとからあとから涙がぽろぽろぽろぽろ落ちてきてどうしても止まらない。

淋しかった。
淋しさに全身が押し潰されそうだった。
体が押し潰されて、その圧力で目からは涙が噴き出してくる、そんな感じだ。

ダメだ。
とにかく涙を止めなくちゃ、家族に変に思われる。
そう思って別のことを考えようと思ったんだけど
本当に止まらない!

仕方がないので布団の中に入ることにした。
これなら家族が来ても気分が悪いからって誤魔化せる。
だけど、横になったらさらに涙が出てきてしまって、おまけに鼻水まで出始めた。
もーホントに、体の中にはこれだけ水分が余ってるのかって思うくらいどんどん出てくる。
ティッシュの箱が空になった。

 

ナオトさんとの楽しかったことばかりを思い出す。
葉月が気持ちよくなるとナオトさんは本当に嬉しそうにしてくれた。
その時の「えへへ」っていう得意そうな顔。
デートの朝、待ち合わせ場所で会った時の嬉しそうな顔。
会ったらいつも「まずはキス」だった。
湖にドライブして露出写真撮ってくれた時の楽しそうな顔。
「葉月ちゃん、葉月ちゃん」っていつも呼んでくれてた。
その時の声。

いつもいつも可愛がってくれた。
本当に大切にしてもらった。
「葉月が気持ちよくなること」をいつも最優先に考えてくれて、
葉月がヘロヘロになるといつもすっごく満足そうな顔してくれてた。
毎日毎日メールのやりとりして、
離れていても「いつも一緒」みたいな気持ちだった。
葉月の体調が悪い時にはいつも心配してくれてた。
無理してると叱られた。

ヤキモチやきだったのも、葉月を大切に思ってくれてたからだ。
それを葉月はわかってた。
わかってて結局ナオトさんだけを選べなかった。
ずっとナオトさんに悲しい思いをさせてた。

 

もっともっとラブラブしたかったよ。
ずっとずっとラブラブでいられるのかと思ってたよ。


時間が経てば落ち着くかと思ってたのに
落ち着くどころか涙は滝のようにさらにどんどん出てきてた。
そのうちに声まで出ちゃうようになってきた。
葉月は布団の中で声を噛み殺しながら「うっ...うっ...うっ...」って
ずいぶん長い時間、泣いていた。
こんなに悲しいことって、大人になってから初めてだった。
自分でどうしていいかわからなくなっていた。

 

 

どうしようもなくなって、葉月は五月さんにメールしてた。

もうずいぶん遅い時間だったと思うけど
「悲しくて悲しくて涙が止まらないんです」
って布団の中からメールした。
五月さんにはナオトさんとのことは数日前に知らせてる。
でもその時には「案外平気な自分に驚いています」っていうような元気な文面を送っていた。

こんな夜中に「涙が止まらないんです」なんてメールを送られても
困っちゃうだろうなぁ、ってわかっていたんだけど
本当に涙が止まらなくてどうしようもなくて、
誰かに聞いて欲しかった。
返信が欲しかったんじゃなくて、
誰か外部の人と繋がっていないとこのままどんどんどん底に落ちて行っちゃうような猛烈な不安を感じたからだ。

 

そしたら五月さんはすぐに返信メールをくれた。
そのメールで、葉月は救われた。

 

悲しみは後から…そうでしょうね。五月もそうでした。
以前「別れを告げられたら、その場ではよく言えたね、とほめてあげて後から泣けばいい」
みたいなメールをした事がありましたが、実際、悲しみは後から来ます。
楽しかった事ばっかり思い出しますしね。

逆にいうと、そう後から思えるって事は、いい恋愛だったって事ですよ。
葉月さんが「いい事ばっかり思いだす。悲しい」のは、やはりお互いに愛していたからだ、と思います。

しばらくは、なかなかしんどいと思いますが、
泣けるような別れが出来る恋愛は、人生の今頃ではなかなか味わえるものではなく、
いずれかけがえのない思い出になるものです。

泣き疲れたら、おやすみなさい。

 

このメールをもらって、また泣けた。
泣けたけど、でも「悲しみの苦痛」から解放された。

それまで止まらない涙をどうしていいかわからなかったのに、
五月さんは泣くことを否定しなかった。
ナオトさんとの恋愛を「いい恋愛だった」って認めてくれた。
葉月が泣くのは当たり前なんだって言ってくれたので
葉月は「そうか、泣いてもいいんだ」って、気持ちがとても楽になったんだ。

五月さんの言う通りだ。
葉月はナオトさんのこと大好きだった。
ナオトさんも本気で葉月を愛してくれていた。
だからこんなにお別れが悲しいんだ。

本当に好きだったんだもん。
誰にも負けないくらいラブラブだったんだもん。
涙が出るのなんて当たり前じゃん。
葉月の涙の量だけ、葉月はナオトさんが好きだったってことなんだから
どんどん泣いていいんだ。

 

五月さんからのメールを読んで葉月は開き直り、
またしばらく思いっきり泣いて、
そして五月さんの言う通りに泣き疲れて気がつかないうちに寝ていた。
五月さんからのメールがなかったらきっと朝までメソメソ泣いていたことだろう。

翌朝、目はハニワのようになっていたけど
思いっきり泣いたので気分はスッキリしていた。
ヘタレの能書き男だけど、やっぱり五月さんはこういうところがマジシャンだな。
「五月アフターサービス」は本当に役に立つよ、などと感心した。

 

 

毎日10往復くらいしていたメールも突然なくなり、
ほとんど毎日していた電話も一切しなくなり、
その後の葉月の生活はなんだか心がスカスカしたようになってしまい、
時々は淋しい気分になっていたけど、
でも「素敵な恋愛だった」っていうことには自信持って行こうって自分で決めて
意識的にメソメソしないようにしていた。

休養させてもらっていたサイト業務にも自分に勢いをつけるために復帰した。
こういう時には自分の「強がり」な性格が役に立つ。
「形から入る」性格でもあるので(笑)、
無理してでも強がってでも「元気になりました〜♪」って宣言して復帰しちゃえば
なんとなくそういう自分に戻ってくる。
こういう時には忙しい方がいいんだ。

 

そうして葉月が力づくで自分を元の自分に戻そうとしていたある日、
じん太さんからメールが届いた。
そう、あれは裏葉月の4周年飲み会の日の朝だった。

じん太さんからのメールは、ナオトさんのメールを転送してくれたものだった。
ナオトさんは以前、葉月がナオトさんをパートナーに選ぶと決めた時に
じん太さんに挨拶のメールをしてくれたことがある。
だからお互いにアドレスは知っている。

葉月はじん太さんにはナオトさんとお別れをしたことを言っていなかったので
じん太さんがナオトさんに「どうなっているんだ?」って問合わせをしてくれたらしい。
葉月に転送されてきたメールはナオトさんがじん太さんに書いた返信だった。

ナオトさんは、今までの経緯をじん太さんに説明してあったけど、
その最後にこんな一文が書かれていた。

 

僕が言うのも変ですが、寂しがりやの葉月ちゃんをどうぞよろしくお願いします。

 

もう収まったと思ってたのに、また涙が出てきた。

もういいよ、ナオトさん。
葉月をそんなに心配するなよ〜、なんて思いながらまたしばらく泣いた。

そうなんだ。
ナオトさんは葉月の強がりを見抜いて、本当はすっごく寂しがりやだってことに気付いてた。
いつも葉月が寂しくないように、本当にいつもいつも気を遣ってくれていた。
いつも自分のことより先に葉月のことを考えてくれていた。
そして真っすぐにぶちあたって来てくれた。

葉月はナオトさんとお付き合いしている間、
寂しいと感じたことは一度もなかったよ。

 

最後のメール以来、ナオトさんとは連絡を取っていないけど、
元気にしてるのかな?
この「うらのら」は読んでいてくれるのかな?

 

ナオトさん。

ナオトさんとの時間は葉月にとっても大切な宝物です。
いつも楽しかったしいつも気持ちよかったです。
本当に心から感謝してます。

最後まで「愛してる」って言えなくてごめん。
でも心の中ではいつも言ってた。
「愛してる」って。

ずっと忘れない。
ラブラブしてもらったこと。

葉月はナオトさんに愛してもらった女として自信を持って
これからもっといい女になります。

ありがとう。
愛してる。

 

葉月

 

 

って、こんなこと書いてたらまた涙が出てきたよ。
もうナオトさんのための涙は5リットルくらい流してるだろうなぁ。(笑)
でも、これだけ泣ける恋愛ができたこと、
葉月はちっとも後悔してないよ。

 

 

 

 

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