
蔵人さんのお仕事の都合でデートの約束がキャンセルになったからって
葉月がBBSでちゃぶ台をひっくり返していたら
その日の夜に三河屋さんからメールが届いた。
フラレちゃったんだ?
僕とメシ喰いませんか?
条件は丸抱えですが。
おぉ〜♪
シャレた誘い方してくるじゃん。
三河屋さんとは「ランチしようね」って話にはなってたんだけど
なかなかタイミングが合わなくて実現できないでいた。
うん、そうだね。
仕事は休みを取っちゃってるし、京都まで三河屋さんに会いに行くのもいいかも♪
丸抱えってのは「経費すべて自分持ち」ってことだ。
またまた、何をカッコつけてるんだか。(ふふん)
そう言えば、少し前に三河屋さんは葉月に対して何か勝手に「借り」を作っていたようだけど
勝手に借りを作られても困っちゃうのよね。
さて、京都には行きたいけど、この部分、なんて返事をしようか…。
そんなことを考えていたら30分後にもう一通メールが届いた。
すみません、書き方が悪かったです。
月曜日、よろしければデートして下さい。
んぷぷ♪
もー、みきゃちゃんたら可笑しい!
って言うか、葉月に対して何をビクビクしてんだか。(笑)
とにかく葉月は月曜日に京都に行くことを返信した。
それが土曜日の夜のことだった。
新幹線の切符を買いに行く時間もなかった。
家を長時間空ける裏工作(笑)もする時間がなかったので、
月曜日は普通に仕事に行くフリをしていつも通りの時間に家を出た。
特にオシャレもしないで、いつも通りの服装で、
いつもと同じ気分で葉月は駅に向かった。
家から東京駅まで小一時間、東京駅からのぞみで京都までは約2時間半。
往復で7時間。
家には夕飯の時間までには帰って来なくてはならないので、京都には3〜4時間しかいられない。
お金のことも時間のことも、ものすごく贅沢なランチデートだ。
だけど、人から見ればそんなバカバカしいデートも、
三河屋さんとならしてもいいと思う。
たった3時間のデートのために、交通費3万円弱と食事代をかけてもいいって、
そう思える相手って、他にはいない。
携帯メールで到着時間を知らせてあったので、
三河屋さんはホームまで出迎えに来てくれていた。
「みきゃちゃん、来ました♪」
「おいでやす♪」
2年ぶりの京都、2年ぶりの三河屋さん。
でもそんなに久しぶりだなんていう気は全然しない。
ホームを歩きながら葉月は
「帰りは16時過ぎの切符を買ってあるのであんまり長くはいられないんです」
「そうですか。今日のお食事の場所は予約してありますから」
「そうなんですか、すみません」
「それが…ちょっと遠いところなんです」
「遠い?」
「はい♪」
「あのね〜、三河屋さん。葉月、長くいられないってメールでも書いたよね?」
「はい」
「駅前の居酒屋で3時間ゆっくり飲もうって言ったよね?」
「はい」
「なのにどうしてわざわざ遠いところに予約すんじゃ〜〜〜!」
「まぁまぁ。車で来てますから、こちらにどうぞ」
まったく、京都人ってのはこれだから困る。
前の時は「料亭禁止、手土産禁止」ってキツく言っておいたのに料亭っぽいところに連れて行かれた。
観光に来てるんじゃないんだよ。
三河屋さんに会いに来てるんだから、駅前でいいんだってば。
そんなことをブツブツ言いながら、
葉月は三河屋さんの後について駅を出て、車に乗せてもらった。
でも、車に乗せてもらってる間もお話はできる。
三河屋さんは
「前回来てもろうた時はほとんど地下鉄で移動で京都らしい景色をほとんど見せらへんかったから」
って言って、走りながらいろいろ説明をしてくれた。
「でもホントに駅前の居酒屋でよかったのに」
「そうは言うても、わざわざ東京から来てもろて駅前の居酒屋じゃ、
『三河屋、なにしとんのじゃ?』って京都の人間から叱られるさかいに(笑)」
「そういうもんですかねぇ」
「そういうもんです」
そんな話をしながら、車は市街地を抜けて山道へ。
3〜40分走ったところで到着したのは山の中の温泉街みたいなところ。
その中の高級料亭みたいなところだった。
さすが京都の料亭って感じの門をくぐって、手入れの行き届いた木々の脇を通り、玄関へ。
お店の人に案内されて奥へ通される。
奥の…あれ?外に出るんですか?
ここでスリッパ脱ぐの?
ななな、なんと!
そこは渓流。
この料亭はオモテからはわからなかったけど、渓流沿いに建っていて、
葉月のいるところはその渓流の真上だ〜〜〜!

川の上に足場を組んで、その上がお座敷になっている。
「川床」というらしい。
そう言えばテレビのグルメ番組かなにかで見たことがある。
「三河屋さん!」
「はい」
「ありがとう。とっても素敵です!」
「そう言うてもろたらお連れした甲斐があります」
この川床料理っていうのは季節モノで、他のお店は9月中旬で終わりなんだそうだ。
だけどこのお店だけは9月一杯やってるっていうことで、
ギリギリ間に合って三河屋さんは予約を入れてくれたとのこと。
駅前の居酒屋でいいのになんて言っちゃって申し訳なかったよ。
こんな素敵なところ、連れてきてもらえるなんて思ってなかったよ。
本当に感動した。
お天気がよかったのも運がよかった。
雨だったら中のお部屋でのお食事になるんだそうだ。
でも絶対に川の上の方がいい!
葉月はビールをもらって、
三河屋さんは車の運転があるのでバービカンで乾杯。
「改めまして本当にお久しぶりです」
「ほんまに、2年ぶりとは思えまへんなぁ」
本当に思えなかった。
三河屋さんとは久しぶりでもなんだかしっくり来る。
初めて会った時からそうだった。
メールも、そんなに頻繁にしてるわけじゃない。
BBSでもちょっと会話を交わすだけ。
どうしてこんなにしっくりくるのか、葉月にはよくわからない。
お料理は、京都らしい繊細な懐石料理。
次々と運ばれてくるお料理は、どれもおいしくて贅沢なものばかり。
上の写真はハモと松茸のお椀。
葉月はハモをちゃんと頂いたのは初めてだったんだけど、
骨っぽいと聞いていたハモは、全然骨っぽくなくてめちゃめちゃおいしい!
食べながら、飲みながら、しゃべりっぱなし。
久しぶりに会ったから、お互いの近況報告みたいな話だけでもどんどん時間が経っちゃう。
葉月の話のメインはやっぱり蔵人さんのことだった。
「三河屋さん、葉月ね…」
「はい」
「蔵人さんのこと、本当に好きなんです」
「わかりますよ(にっこり)」
「え?わかる?どうして?」
「そんなん、サイト見てればわかりますよ」
「そそそそう?今までの葉月と違うってわかります?」
「わかりますよ」
「そそそそうか、やっぱりそうか。あははは」
三河屋さんは、リュウさんにちゃんと紹介したこともあるし、元愛人さんに会ったこともある。
もうずっと長い間、葉月を見守ってくれている。
(会う度に男が変わってるとも言う。わはは)
だから、ちゃんと今回も、会って葉月の口から報告したかったんだ。
会えていろんなお話ができて本当によかったと思ってる。
あ、これもハモです。
ハモだけじゃなくて鮎も頂いたし、茶わん蒸しとか天ぷらとか、それはそれは豪華なコースでした。
今回おもしろかったのは、三河屋さんとの「駆け引き」だった。
「丸抱え」という条件で誘ってきたのは三河屋さんの方だけど、
「そうですか、それじゃ」ってその言葉に乗っていくほど葉月もずうずうしくない。
前回は「葉月が自分で行くからおいしいもの食べさせて」って言い方で葉月が京都に押しかけた。
交通費は葉月持ち、飲食代は三河屋さん持ち、普通はそれでチャラだ。
今回も葉月はそういうつもりでいた。
金額の問題じゃない。「意志」の問題で、
葉月は「葉月が」三河屋さんに会いたかったから行ったんだ。
逆に三河屋さんは「来てもらう」っていう気持ちがあるし、自分から丸抱えの条件を提示してるので
その条件を後から引っ込めたくはない。
意地でも。(笑)
お互いに、お金が有り余ってるわけじゃない。
だけどこれは、物事の「筋」の問題でもあって、
京都人の頑固さと、江戸っ子の意地のぶつかり合いだ。
葉月は、時間と体力を使って京都まで移動しているから
地元の三河屋さんにご馳走になることは罪悪感はない。
だから話の焦点は「交通費」ということになる。
葉月は「三河屋さんに会いに来た」というスタンスでいたい。
三河屋さんは「葉月さんを呼んだ」というスタンスでいたい。
お金のことのようでいて、実はこれはお互いの気持ち(=ハート)の押し付け合いだ。(笑)
料亭を出て駅に向かう車の中で、三河屋さんは
「交通費のことをどんなに言っても葉月さんは受け取ってくれないでしょうから…」
って溜め息をつきながら言った。
「それじゃ、こういうことにさせてください」
「なに?」
「交通費は葉月さん持ちってことで、三河屋からは5周年飲み会の差し入れを出させてください」
そうそう、三河屋さんったら以前にも、飲み会の時に差し入れをくださって、
そのお金で刺し盛を追加させてもらったんだった。
律義な人だ。
「それならいいですやろ?」
「うん、まぁそういうことなら…」
車の中で三河屋さんからご祝儀袋を受け取って
「それじゃ参加者のみなさんに、三河屋さんからってちゃんと言って、お店で何か出してもらいますね
ありがとうございます」
ってことで、一件落着したのだった。
…のはずだったんだけど。
不覚だった!
やられた!
葉月は食事の時に調子に乗ってビール飲んでたので、車の中ではちょっと酔ってた。
もっと突っ込むべきだった。
家に帰って来てご祝儀袋の中をみたら、
そして翌日、三河屋さんからメールが届いた。
五周年のカンパと言いましたが
葉月さんとの約束の交通費は必ず差し引いて下さいね。
あの時、少し酔った葉月さんに何を言っても仕方なし、と
時間差攻撃で失礼しました。
三河屋
結局、三河屋(もはや呼び捨て)の腹黒さに負けて(笑)
葉月は「遊びに行った」んじゃなくて「遊んでもらった」立場になってしまった。
京都人、恐るべし。
ま、人生経験では敵わないし、
対等な友人ぶっていても実際には葉月が甘えてるだけなんだけどね。
京都から、夕飯の仕度よりちょっと遅い時間に、葉月は帰宅した。
いつも通りに家のことをしていると、
さっきまで京都にいたとは思えなかった。
朝普通に家を出て、夜もこうして普通に家のことしてるのに、
昼間の3時間ほどだけ、ぽっかりと京都。
夢を見ていたみたいだなって思った。
こんな深呼吸のような京都デートだった。
三河屋さん、おおきに。
次に会う時までお互い元気でいましょうね。
