福耳の悪魔 12

 

 

 

「さぁそろそろ行かないと」

って一発さんが言った。

 

あぁもう本当にお別れなんだなって思った。
ここから駅までは1分くらいしかない。

 

改札まで一緒に歩きながら葉月は言った。

 

「やっぱりさ、お別れする時にメソメソするのはよくないよね」

「そうですね。笑顔でお別れしましょうよ。またいつか会えるんですから」

 

そんな話をしながら、葉月はもう泣く寸前だった。

そうだよね、笑顔だよね、やっぱり。
最後の顔ってずっと記憶に残っちゃうんだから、笑顔でお別れしなくちゃ。

泣きそうだけど、お別れするまでもう少し!
もう少し頑張れ葉月!

涙が出そうになるのを必死に抑えてた。

 

 

でも、改札に着いて券売機にお金を入れて、
「新千歳」のボタンを押した時に葉月の何かが切れてしまった。

一発さんの方を振り向く前に、涙がぽたぽた落ちてきてしまって、
どうにも止まらなくなってしまったのだ。

 

うわ、やばい。
アタシ、泣いちゃってる。

 

自分の泣き顔がブスなのはよく知ってる。
こんな顔で一発さんとお別れしたくない。

でも一旦泣き出すと止まらないのも自分でよくわかってる。
切符を持って一発さんの方を見たら、もう完全にボロ泣きだった。

 

「ごめん。泣いちゃった…」

 

一発さんの笑顔がまた泣けた。

 

 

「それじゃ。いろいろありがとうございました!」

 

これ以上一緒にいると本当に最悪のブス顔を一発さんに見せることになる。
じめじめしたお別れをしちゃいけないと思った。

 

葉月は一発さんから逃げるように改札の中に入った。

後ろから「葉月さん!」って一発さんが呼び止めてくれる声が聞こえたので、
振り向いた。

一発さんが改札の向こうで手を振ってくれていた。


一発さんの声

ダメだよ。
地元民なんだから、こんな大泣きしてる女にそんなに大きく手を振っちゃ、
知ってる人に見られるかもしれないじゃん。

 

それに、そうやって最高の笑顔で見送るなー!

 

悪魔のくせに。

たった一晩でこんなに好きにさせて。
たった一晩でこんなに忘れられなくさせて。

もう会えないかもしれないのに。

 

悪魔のくせに、優しく笑うなーーー!!!

 

 

ぽろぽろどころじゃない、ドドーって感じで涙を流しながら葉月は一発さんに手を振った。
たぶんその時は笑ってなかったと思う。

手を振ったらすぐに後ろを向いて、もう振り返らないでホームへの階段を一気に上った。
一発さんが後ろからまだ見送ってくれてるかもしれないって思ったけど、
何故かわからないけどもう振り向けなかった。

振り向いたら帰れなくなるような気がして。

 

楽しかった。
楽しかった。
楽しかった。
物凄く楽しかった。

こんなに楽しかったことなんて、今までにあったか思い出せないくらい楽しかったよ。

 

電車はすぐに来て、葉月は乗り込んだ。

4人掛けの座席に座ったんだけど、正面に座ってるおじさんが、
メソメソ泣きながら何度もハンカチで目を拭ってる葉月を心配そうに見てた。

 

携帯で、一発さんに簡単なお礼メールを打って送信したら、ほぼ同時にメールを1通受信した。
一発さんからだった。

 

今回は本当にありがとうございました。
今日ほど一発サーチをやっていて良かったと思ったことはありません。
楽しかったです。

いつもここに私はいますよ。
そしていつでも待ってます。
爪を研いで(笑)

またいつか。

出来の悪い弟より

 

やっと止まりかけてた涙がまたぽろぽろ落ちてきた。

なーにが「またいつか」だよっ!!!
爪研いで待ってろ、バカヤロー!

 

福耳のくせに。
「いい人」みたいな顔してるくせに。
葉月よりもずっと年下のくせに。

葉月をこんな気持ちにして帰すとは、こんなに大泣きさせるとは、
大したもんだよ。

 

手の甲を見ると、さっきの爪痕がもう薄くなってきていた。
あー消えちゃうんだ。
これじゃ東京まで持たないかもしれないな。

 

そんな葉月が東京に向かっている頃、
札幌ではテレビのニュースになるほどの大きな虹が出たんだそうだ。

夕焼け空に虹。
ありえない気象現象に見送られながら、葉月は飛行機で東京に向けて飛び立った。

 

たった一夜の札幌デート。

手の甲の爪痕はすぐに消えちゃったけど、
葉月のハートには一発さんの爪痕が、今でも残ってる。

 

 

 

 

 

 

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