福耳の悪魔 5

 

 

 

部屋の電話が鳴った。

ドキッとする。
なんだろう?

一発さんは手を止めて、葉月はヨロヨロと起き上がって電話に出る。

 

電話はホテルのフロントからだった。

「恐れ入ります。ご確認させて頂きたいのですが、今夜のご宿泊はお1人様でいらっしゃいますよね?」

って、フロントの人の丁寧な口調。

 

「はい、そうですけど。」

「申し訳ありませんが、客室への入室はご宿泊の方だけに限らせて頂いておりますので…」

 

うわー、チェック入るんだ。
チェックインしてから一発さんと一緒にエレベーターに乗ったのはフロントの人も見てたけど、
こういうのって黙認するものなのかと思ってた。

それとも、葉月があんまり叫んでたから隣の部屋からクレームが来たのかなぁ?
そっちの方がありえるかも。(^_^;)


一発さんの声

「これからお出かけになられますか?」

「あ、はいはい、出掛けます。今すぐ出かけます」

「そうですか。それは大変失礼致しました」

 

って、フロントの人も慣れてる。
お客を怒らせないように言いたいことはハッキリ言ってくる。
まぁでも、出掛けようとしてたのは本当なので、身支度をしてお部屋を出た。

 

一旦下に降りたんだけど、

「あ、露出するならスーツじゃなくてコートの方がいいかなぁ?
葉月、薄いコートを持ってきてるんだけど」

ってことになって、一発さんに下で待っててもらって、もう一度着替えに戻った。

 

葉月は着ていたものを全部脱いで、コートだけを一枚羽織った。
スプリングコートなので見た目が暑苦しい感じはしなかったけど、
丈が短いのと、素足にヒールの靴ってのがどーも不自然。

ま、夜だし、いっか、と思って、その格好で出ることにした。


一発さんの声

この時、一発さんには言ってなかったんだけど、
お部屋を出る前に葉月は蔵人さんに電話をかけていた。
夜10時すぎ。
蔵人さんはまだ仕事してる時間のはずだ。

 

「はい、蔵人です」

運よく蔵人さんが電話に出てくれた。

 

「葉月です。こんな時間にごめんなさい」

「いや、いいですよ。仕事してますから」

「ねぇ蔵人さん。
葉月今ね、ホテルのお部屋にいて、これから一発さんと外に写真撮りに行くんです。」

「そうですか」

「その後、どうなるかまだわからないんだけど、
もしかしたら一発さんに、エッチしてもらってもいい?」

 

我ながら変な言い方だと思った。

だけど、この時葉月は、なんとなくこの先の展開を予感していた。
葉月にまったくその気がなければ、蔵人さんに電話なんてしないし、
こんなことをわざわざ聞いたりしない。

「エッチしてもらってもいい?」

この言い方は「したいです」っていう申告だ。

 

「いいですよ」

って蔵人さんは言った。

 

「いいの?蔵人さんは嫉妬とかしないんですか?」

「嫉妬がまったくないとは言い切れないけど、一発さんだったら知ってる人だし、
それに葉月さんが楽しく過ごした方が僕も嬉しいですから」

 

「一発さんだったら知ってる人だし」

そうか。
そこが蔵人さんのラインなのかなって感じた。

 

そもそも他の人とのエッチを禁止されてないんだし、許す許さないの話ではないんだけど、
蔵人さんは蔵人さんの目が届く範囲で葉月が遊んでいる分には「安心」してくれる。
一発さんのことはサイトの中でもよく見かけてるし、葉月が一発さんに懐いてることもよく知っているから、
まったく知らない人と遊ぶよりも蔵人さんは安心なんだ。

もしかしたら、一発さんの奥さまも、
葉月と会うことで「まったく知らない女」よりも安心って思ってくれたのかもしれないなって、
ちょっと思った。
人って、見えないことに対して不安になるものだから。

 

「そうか。そうですか。そうですよね、蔵人さんはそう言ってくれると思ってました。
でもいいのかなぁ。」

「大丈夫ですよ。いつも僕が教えてるようにしてればいいんですから。」

って、蔵人さん。

葉月がこういう展開になってること、なんだか嬉しそう。

 

「僕、あと30分くらいは電話に出られますから、あとで電話してくれてもいいですよ」

「わかりました。」

って言って、電話を切った。

 

 

下に降りて一発さんが待っていてくれてるところまで戻って、歩き出す前に、

「ちょっと蔵人さんに電話するね」

って言って、葉月は蔵人さんにもう一度電話をかけた。

「これから一発さんに写真撮ってもらいに行ってきます」ってことを言ってから、
一発さんにも電話に出てもらった。

 

「あ、どどどどーも、はじめまして、一発です。
これから葉月さんとちょっと撮影に行かせてもらいます。」

っていうようなことを一発さんは言っていて、さすがに緊張してるのがわかっておかしかった。

 

「あ、はい…、はい…。それじゃ、失礼します」

って、簡単な挨拶だけで電話は終ったんだけど、

「蔵人さん、なんか言ってた?」

って聞いたら

「葉月さんをよろしくお願いしますって言われちゃった…」

「そっか♪」

 

引き渡し作業完了!
これで気持ちがすっごく楽になった。

もちろん、楽になったのは葉月だけで、
蔵人さんにしてみたら仕事してる最中に
「他の人とエッチしてもいいか」なんて電話がかかってきても困っちゃうだけだと思うけど、
葉月は蔵人さんに対して、できるだけ事後報告はしたくない。

「一発さんとビール飲んでくる♪」って言って出掛けてきてるし、
本当にそのつもりだった。
だけど、さっきの変な感じ…、怖いんだけど異常に濡れちゃうあの感じ。
爪を立てられることで全身に刺すような快感が走る、あの初めての衝撃。

その続きがもしあるのなら、
葉月が望めばその続きをしてもらうことができるなら、
この後、葉月がその選択をする時があるなら、
葉月は「されたい」って思った。

 

一発さんに無理に誘われて断れなかったんじゃない。
今の時点で葉月は自分からそれを望んでいたんだっていうことを、
蔵人さんに伝えとかなくちゃいけないような気がした。
何かあってから後付けの事情説明をしようとしても、何を言っても言い訳っぽくなる。

 

一発さんは「無理強い」はしないだろう。
この先、葉月が「選択」をしなければならない時がきっとある。

 

 

葉月は全裸に薄いコートだけ着た状態で、一発さんと夜の街を歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

NEXT:福耳の悪魔6

 

福耳の悪魔INDEXに戻る

裏葉月メニューに戻る