バレンタインのお仕事・前編

 

 

 

 

2009年の2月は、葉月にとって正念場の月だった。

昨年から職場の状況が変わって仕事の量はどんどん増えて、
3ヶ月前に比べて量だけでも「倍」になっている。
量だけでなく、難易度の高い仕事を任されるようになって、本当に厳しい。

休日はほとんど仕事。
それだけでは終らないので残業ももちろんだけど、この時期には早朝出勤もするようになっていた。
通常9時半までに出勤すればいいんだけど、朝7時とか7時半とかに出勤すれば2時間多く仕事できる。
そんな生活をしていても、まだ終らない。
まだ追いつかない。

 

そんな状態だったので、
週に1回くらい蔵人さんと電話でお話させてもらうことだけが葉月の元気の素。

ある日、蔵人さんが電話でこんなことを言った。

 

「○日なんですけどね。
夕方の会議がなくなったのでその後ちょっと時間があるんですよ。」

「○日?」

頭の中にカレンダーを思い浮かべた。

うげげげげ。
○日っていうのは修羅場の中でも特に修羅場の日。

蔵人さんが指定したその日の午後は、なんと打ち合わせを4本も入れている。
自分が忙しいだけなら朝や夜にその仕事を回すことはできるけど、
相手がいる仕事は動かせない。

 

とほほほほ。
せっかく滅多にない蔵人さんが空いてる時間なのにぃ。
葉月は泣きそうな気分になった。

 

だけど…。

待てよ?

○日って、バレンタインの直前じゃない。

そっか。
この日を逃したら蔵人さんにチョコ渡せないんだ!

そう思ったら絶対に会いたいと思った。
なんとか会う方法はないだろうかって考えた。

 

「蔵人さん!その○日の話、今お返事しないと他の予定を入れちゃいます?」

「いえ、別にいいですよ。
葉月さんが都合悪ければ社に戻って仕事するだけですから」

「葉月、ちょっと頑張ってみますからお返事ちょっと待っててください!」

 

幸いなことに、その日までまだ数日の時間があったので、
葉月はそれからいろいろな調整をしてみた。

4つの打ち合わせのうち、2つは別の担当者もいて葉月は立ち合うだけのミーティングだったので、
それぞれの担当者に葉月がいなくても大丈夫なように事前に念入りな打ち合わせをした。
残りの2つは葉月がいなければどうにもならない打ち合わせだったので、
日にちをずらしてもらうしかないんだけど、
葉月の方が他の予定がギッシリなので、ずらせる時がないという大ピンチ。

その大ピンチも先方に迷惑をかけないように何とかクリアして、
本当に大変な思いをして○日の午後を空けた。

 

会社を抜け出すのは簡単だった。

「葉月さんは今日、大忙しの日ですもんね。頑張ってください!」

なんて、こっちが何も言ってないのにアシスタントの女の子から声をかけられてしまった。
心の中で「ごめん」と手を合わせながら

「そうなのよ〜。いってきまーす」

と会社を出る。

 

大丈夫。
嘘はついてるけど迷惑はかけてない。
この穴埋めはちゃんと自分でやるからね。

 

蔵人さんにバレンタインのチョコを渡したい気持ちだけだった。
いえ、本当はチョコなんてどうでもよかったのかも。
こんな息の詰まる毎日から、ちょっとだけ抜け出したかったんだ。

蔵人さんに会うだけで、パサパサの自分が潤うような気がした。
蔵人さんの声を生で聞くだけで、優しい自分を取り戻せるような気がした。

この時蔵人さんに会いに行くことは、葉月にとって必要な時間だったんだ。

 

待ち合わせの喫茶店は、いつもは半分くらいは空席なのに、
この時は夕方だったのでほぼ満席。
テーブル席が空いていなかったのでカウンター席に座って蔵人さんを待った。
少ししたら蔵人さん登場。

うー、やっぱり蔵人さんって癒し系。
ちょっとお話するだけで気持ちがとっても安らぐ。

蔵人さんはその日のお仕事のことをちょっと話してくれて、
葉月はいつも通りの忙しい状況などを説明して、
他にもいろいろおしゃべりをした。

 

1時間くらいおしゃべりして、「どうする?」ってことになった。
蔵人さんも葉月も、戻らなくちゃいけない時間まであと2時間くらい。

 

「蔵人さん、ご飯食べてないんですよね?お腹空いてます?」

「いえ、それほどでも」

「葉月もねー、お昼食べたの遅かったんです。
お昼って言っても仕事しながらおにぎり食べただけだけど」

「どうしましょうか。」

「どうって、ご飯食べるかエッチするかってことですか?」

「葉月さんはどうしたいですか?」

「あ、またそれだ。葉月に決めさせようとしてる!(笑)
ダメですよ、今日は蔵人さんが決めてください。」

「うーん…、どうするかなぁ?」

「うふふ。」

 

蔵人さんが考えてる様子を見て、葉月は楽しい気分だった。
葉月はこの時、
本当は会える状況じゃなかったのに蔵人さんに会えたっていうことだけで満足だったので、
お食事でもエッチでもどっちでもいいと思っていた。

どっちでもいいんだけど、
いつもは何でも葉月に決めさせる蔵人さんが「何かを決める」っていうことが
二人の間では珍しいことなので、
その様子がなんだかとても楽しかった。

とは言っても、「蔵人さんがエッチを選んでくれたら嬉しいな」って思ってた。
いつも「僕は別に構いませんよ?」的な態度の蔵人さんが、
自分からエッチを選択してくれたら嬉しいもん。


蔵人さんの声

「それじゃ…、せっかく会えたから行きましょうか」

 

わーい、やったー!
蔵人さんがエッチを選んでくれたー♪

 

「あ、そうですか?それじゃ行きましょうか?」

なーんて、葉月は「どっちでもよかったんですけど」的な態度で、
それでもさっさと席を立って(待ち構えてたのバレバレ)、
蔵人さんの先に立って喫茶店を出る。

 

わーいわーい、蔵人さんとエッチできるんだー。
忙しいのやりくりして頑張って出てきてよかったなぁ。

「食事」を選ばなかった蔵人さん、大好きー!!!

 

そんなことを考えながら、
葉月は蔵人さんとホテル街に向かって歩いたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

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