全頭マスクの夜3

 

 

 

「そろそろ戻りましょうか」

「はい、あ、そうですね」

 

会計を済ませて、蔵人さんと葉月はホテルに戻った。

フロントで「おかえりなさいませ」と声をかけられる。
ちょっといい気分♪

 

指定したわけではないのに、お部屋は最上階だった。

チェックインの時に

「お部屋は○階の○○号室でございます」

ってフロントのお姉さんに言われて、葉月は「あれ?」って思った。

 

「○階って、もしかしたら最上階じゃないですか?」

「さようでございます(にっこり)」

「それってもしかして、『いいお部屋』ってことですよね?」

「さようでございます。ごゆっくりどうぞ(にっこり)」

 

さっきはまだ明るかったのでわからなかったけど、
お部屋に戻ってみると最上階からの夜景は、本当に綺麗で素晴らしかった。

葉月は、夜景が綺麗に見えるところでのお泊まりは、
ムードに飲まれていつもと違う自分になれる。

今夜もそうなれるのかなぁなんてことをちょっと思った。

 

蔵人さんがパソコンでお仕事のメールチェックを始めたので、
その間にシャワーを使わせてもらうことにした。

蔵人さんをお待たせしてはいけないので急いでシャワーを浴びて、
それでも一応こういう夜だからと思って裸じゃなくてもう一度服を着て部屋に戻った。
葉月なりに思惑があったからだ。

 

だけど蔵人さんのところに行ったらすぐに

「じゃ、脱いでください」

って言われた。

「え。あ、そうですか。脱ぐんですね、やっぱり…(とほほ)」

 

裸になって、また全頭マスクを被せられる。
2度目なのでさっきよりも時間はかからない。

葉月はついさっき、
「夜景が綺麗なお部屋だと…」なんて考えたことがまったく意味のないことだったと気付いた。
だって全頭マスクをされたら
夜景どころかすべてのものが見えなくなっちゃうんだもの。(大バカ)

 

でもまだこの時は、
アイマスクをつけられていなかったので目と口の部分は開いていた。

 

 

蔵人さんは麻縄を出して葉月の腕を縛り始めた。
いつもの高手小手ではなくて、腕を折り曲げて手首と二の腕を縛るやり方…。

「あ、これはもしかして、ワンちゃん縛りですか?」

葉月は不安そうに蔵人さんを見上げる。

「そう」

 

肘とヒザだけで四つん這いにさせられるあの縛りは、お散歩させられると物凄く痛いんだ。
葉月はまず、ホテルのお部屋の床に目をやった。
柔らかいカーペットだったのでちょっとホッとする。

 

蔵人さんが葉月の四肢を縛り終る頃に、「ピンポーン」というお部屋のベルが鳴った。
葉月は動けないので、蔵人さんがドアを開ける。

 

「こんばんは」

「こんばんは」

登場したのは啓太さんだった。

 

啓太さんが22時頃に到着することは葉月も知っていた。
蔵人さんの希望で啓太さんに連絡を取ったのは葉月だったから。

 

でも…、あーん、こんなミジメな姿で啓太さんに会いたくなかった。
やっぱり最初はちゃんと服を着た状態でご挨拶したかったなって思った。
葉月がシャワーの後、 服を着て出てきたのは啓太さんが来ることがわかっていたからだ。

 

でもこういう状態になっちゃってるんだから仕方ない。(とほほ)
葉月は現状で精一杯の挨拶を啓太さんにした。

「啓太さん、イエーイ♪捻挫大丈夫?」

縛られてるけど辛うじて動かせる指先でVサインをして、
顔は精一杯の笑顔だったつもりなんだけど、
全頭マスクなのでそれは啓太さんにはわからなかっただろう。

 

啓太さんは前の日にちょっとケガをしてしまって、
今日はもしかしたら来られないかもって思ってたのに、
無理をして来てくれた。
そのことだけでもとっても嬉しい。

 

「あ、葉月さん。あははは、全頭マスクね。いいじゃない♪」

啓太さんには今までの経緯や全頭マスクを買ったことなどを全部話してあるので
ビックリはされない。

 

啓太さんとのやりとりを遮るように、
蔵人さんは葉月のマスクの目と口にパチンパチンとホックでパーツをつけて塞いで、
四つん這いにさせた。
葉月は何も見えなくなって、肘とヒザだけでバランスを取る。


啓太さんの声

そしたら、背中に何か冷たいものを置かれた。

ヒヤッとするような感じがして、でも水気があるようには感じない、
石とかガラスのような材質のものだと感じた。

 

(え?なんだろう?)

 

蔵人さんと啓太さんは久しぶりの再会で、
挨拶から始まって「最近はどうなんですか?」みたいな世間話をしていた。

たぶん、2つのベッドに向かい合って腰掛けてたんじゃないかと思う。
葉月はその2人の脇の床で四つん這いになっていた。

 

2人は、葉月のことを完全に忘れてるみたいに、仲良く話をしてた。
時々、葉月の背中にトントンっていうような軽―い振動を感じた。
あー、そうか。葉月の背中に置かれてるのは灰皿だ!って思った。

 

(サイドテーブルにされてるのか!)

 

「今はね、○○○のことをやってるんですよ。あ、そうそう今日の会議ではね…」

なんて言って、
蔵人さんは自分のバッグからお仕事の書類か何かを出して
啓太さんに見せてる(ような感じ)。

 

「へぇー。これってもしかして凄いことなんですよね。
これは蔵人さんの会社の成果なんですよね」

「会社っていうか、グループのね」

「それじゃここから○○○にもなるってことですよねぇ」

「それはどうかな。まぁ○○○にはなるでしょうけどね」

 

完全に仕事モードの話になってる。

葉月は話に加われないどころか、存在を完全に無視されている。
時々啓太さんか蔵人さんがタバコの灰をトントンってする時だけ、
ほんのちょっぴり役に立ってる気持ちになれて嬉しい。

 

この時葉月は、体は灰皿置きになりきることに徹していたけれど、
頭の中では物凄くいろんなことを考えていた。

まず、「この空気、この2人、凄い!」っていうこと。

蔵人さんは啓太さんが登場した途端に葉月をモノとして扱って見せた。
葉月は、蔵人さんからは何も言われてなかったけれど、
蔵人さんの態度で「あーん、葉月も仲間に入れてくださいよぉ」的なことは言えなくなった。

啓太さんは何も知らずにこの場に入ってきたのに、
すぐに空気を読んで蔵人さんとおしゃべりを始めた。
「葉月ちゃん、大丈夫?ぽんぽん」
なんて葉月に声をかけたりお尻叩いたりしたらいけない場面だってことは
啓太さんにはわかったんだろう。
蔵人さんが啓太さんを信頼しているところはこういうところなんだろうなぁって思う。

 

打ち合わせは何もなし。
1年ぶりに会った蔵人さんと啓太さん。

この時2人が何を考えていたのかは葉月にはわからないけど、
葉月はこの「歓談タイム」で
「今日は葉月をモノにして遊ぼう」という無言の確認みたいなものが
3人の間で行われているような気がしていた。


蔵人さんの声


啓太さんの声

 

 

 

NEXT:全頭マスクの夜4

オセロ的保護者ルームINDEXに戻る

裏葉月メニューに戻る