全頭マスクの夜1

 

 

 

あの「特別な夜」のことを、どうやったら文章で表現することができるのか、
文章にすることなんてできることなのか、
葉月は悩んでいる。

あの夜のことを語るには、そこに至った経緯や背景などを長く説明しなければならない。
それをすることが必要なのかも、よくわからないでいる。

 

とにかく葉月は今、夢から覚めたばかりのような、
何が現実なのかわからなくなってるような不思議な気持ちになっている。

夢は時間が経てば記憶から消えてしまう。
消えてしまう前にできるだけ今の気持ちを書き記しておきたくて、
そのためだけに書いている。

 

 

蔵人さんに全頭マスクを被せられた時、
「思ってたよりもきついな」って思った。
その全頭マスクは葉月が自分の意思で用意してきたものだ。

ネットでいろいろと物色したけれど、素材も値段も様々なものがある。
見るからに「ビニール」って感じの安っぽいものや、
本革を使って鋲などの手の込んだ細工のしてあるもの。
ピッタリと貼り付くようなラバー製のもの。

その中で葉月が選んだものは、
「柔らかい子牛の皮を使った」と説明されているもので、
後ろが編み上げ(ヒモで縛るタイプ)になっているものだった。

 

蔵人さんは慣れた手つきで葉月にマスクを被せてくれた。

「ここがチャックになってると髪の毛が挟まっちゃうんですよ」

なんて言っていたから、以前にもいろいろ経験があるんだろう。

 

葉月はもう少し、スポッって感じに簡単に被れるものかと思っていたんだけど、
毛糸で編んだマスクを被るように簡単にはいかない。
蔵人さんが後ろのヒモを緩めながら葉月にマスクを被せてくれて、まずアゴの位置を合わせる。
それから目と口の位置を確認して、その後丁寧に締め上げてくれた。

葉月の顔が大きいのかそういうものなのかはわからないけど、
マスクは顔をきっちり圧迫している。

顔全体、頭全体を締めつけられる圧迫感。
こういう感覚は経験したことがない。

ドキドキする。
これから何が起きるのか、想像もできない。

 

マスクの目の部分と口の部分は開いていて、別のパーツをホックでつけられるようになっている。
マスクを装着した後、
蔵人さんがアイマスクと口を塞ぐパーツをパチンパチンと押さえ付けて止めた。

視界が完全に遮られて、何も見えなくなる。
光は何も見えなくなって、突然暗闇になった。

 

 

呼吸は、苦しくはなかった。
多少の制限はかかるものの、普通に呼吸はできる。

「どうですか?」っていうようなことを蔵人さんに聞かれたような気がする。
その蔵人さんの声は普通に聞こえたけれど、どちら側から声がしてるのかはわからない。
目も見えないので自分の方向感覚もわからなくなる。

何かを答えようと思ったけれど、呼吸はできるけど喋ることはうまくできない。
何かを言おうとしても「モゴモゴモゴ」としか言えない。

 

普通のアイマスク(目隠し)をされた経験はある。
視界を遮られるということでは同じだけど、
全頭マスクはされた感覚がアイマスクとは全然違う。

視界だけでなく嗅覚とか聴覚とか言葉を発することも制限されて、
方向感覚も周りの気配もわからなくなって、自分がどこにいるのかがわからなくなる。
暗闇の中にひとり…。

そして何よりも顔全体を覆われることで「自分でなくなる」ような気分になる。
全頭マスクをされた時から、葉月は葉月でなくなる…ような気がした。

 

 

蔵人さんが葉月の胸元から手を入れてきて、無造作に葉月の乳首を抓る。
全身がゾクッとする。
蔵人さんがどこにいて、どの方向から手を入れてきてるのかわからない。

「あぅ」っと声を出したつもりだったけど、
その声はマスクに遮られて、「ぐぐ」っというようなただの「音」にしかならなかった。

 

逃げることもできない、助けを求めることもできない。

もちろん、相手は蔵人さんで葉月は自分から求めてこの場にいるのだから逃げるつもりなんてないけど、
でも「それができない状況」に気付くととても心細い気持ちになる。

 

いつもと違う。
何もかもが全部違う。

葉月の体を弄っている蔵人さんが、笑っているのか真剣な顔をしているのか、
葉月にはまったくわからない。
この手が本当に蔵人さんの手なのかも葉月には確認する術がない。

そして葉月も、顔を奪われて葉月ではなくなっているのだから、
蔵人さんは「葉月」を弄んでいるのか、
それとも顔のない「ただの女」、もしくは「オモチャ」として接しているのか、
それもわからない。

 

いつもと同じ、いつもの蔵人さんの手のはずなのに、
知らない人にされているような感覚。

人間の感覚なんてアテにならないものだなって思う。
人は感覚だけでなく、目で見てそれを確認して、音や匂いでさらに確認して、
頭の中で納得しながらそれを「感覚」として認識しているものなんだろう。
体を触られるだけの触覚で、誰にされているかなんてわからない。

 

胸を鞭で軽く叩かれた。
いつもなら蔵人さんが鞭を手にしたのを見て体を固くしたり身構えたりするけど、
何もわからないので突然痛みを受けることになる。

ストッキングをヒザの辺りまで下ろされて、電マをあてられた。
それから腿の内側を鞭で叩かれた。

電マで強制的に快感を与えられ、鞭の痛みがその快感を追い払う。
気持ちよくなると痛くて、また気持ちよくなって痛い。
その繰り返しで、そのうち何が痛くて何が気持ちいいのかよくわからなくなってくる。
頭が朦朧としてくる。

 

いつもなら「痛い痛い」と叫ぶところだけれど、叫ぼうとしても声が出せない。
自分の呼吸が荒くなってくると、マスクの中にその呼吸のハァハァした音が回って、
外の音は完全に聞こえなくなる。

完全に「自分だけ」の世界になる。

 

快感と痛みだけは与えられているけれど、
それがどこからやってくるものなのか、考えられない。

真っ暗な闇の中で、自分がどこにいるのか、どういう姿勢なのかもよくわからず、
周囲の状況もまったくわからず耳から入ってくるのは自分の息遣いとくぐもった呻き声だけ。

電マのモーター音も鞭の音も、もう聞こえない。
感情のない快感と痛みだけが、外からの刺激。

 

この状況に、葉月は憧れていた。

こういう状態になってみたかった。

 

その「欲」を、形になっていない状態で蔵人さんに話したら、
蔵人さんが形にしてくれた。

 

でもまだこの時は、「感謝する」という意識すらも、葉月の中にはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

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