8月のたなぼた

 

 

 

「この日しかフリーになれる日がないんですよね」

蔵人さんとのチャットでこんな文字列を目にして葉月は一瞬意味がわからなかった。

 

「デートできるんですかっ?」

「まだ不確定ですけど…」

 

ビックリしたし、信じられなかった。
かなり前から、8月はお互いに予定が多くて、デートするのは絶対に無理ってことになっていた。
葉月は家の用事があるし、蔵人さんは8月は特に仕事が忙しい。

それは納得していたし諦めていたので覚悟してた。
だからこそ、ちょっと無理をしてでもお泊まりデートを決行したんだった。

 

だけど、そのお泊まりデートがいけなかったのかも知れない。
その前のロマンティックデートとお泊まりデートがあまりにも素敵過ぎたので
葉月の気持ちが蔵人さんに偏り過ぎた。

通常の「月一」よりも間隔が短く、いつもより素敵で特別な時間を過ごしてしまって、
その後予告通りに多忙になった蔵人さんとほとんど連絡が取れなくなった。
天国に上らされてそこからいきなり地獄。
いつもなら少しくらい連絡が取れなくても平気なのに、
しかもその時蔵人さんが忙しくなることはずっと前から聞いていたことなのに、
葉月はちょっとおかしくなってしまった。

 

予告もされていて納得もしていて、自分でも「平気♪」と思っていたことが、
実際には全然平気じゃない。
そんな自分が情けなかったこともあるし、
こんなことくらいで泣き言を言いたくなかったこともある。
結局葉月は悶々として出会い系サイトに登録したりして蔵人さんに心配かけたことは
少し前の日記の長電話レポートに書いた通り。

 

お盆の時は葉月も家庭モードだったのでのんびり過ごしたんだけど、
お盆が明けてすぐのチャットで、蔵人さんから上のようなことを言われた。
8月の最終週なんて、
以前聞いていた蔵人さんの予定によるとメチャメチャ忙しい時のはずだ。
たまたまその日一日がフリーになれたとしても
その前後のお仕事がひっちゃかめっちゃかのはずだった。
なのに葉月のために時間を空けてくれるって言うのは、
明らかに葉月の不安定な状態があったからだ。

 

申し訳ないなぁ、情けないなぁって思った。
こういうことにならないように前々から予告をされていたし、
たぶん8月分の先取りのつもりでお泊まりにも呼んでくれたんだろうに、
葉月ったら全然「お利口さん」できてないじゃない。

悶々として出会い系サイトに登録しました、なんて言うのは脅迫してるようなものだ。
そんなつもりでは決してなかったけど、結果的にそうなってる。
葉月の気持ちは複雑だった。
嬉しいのと、申し訳ないのと半々。

 

だけど、その前の長電話で
「動物を飼うのは手間がかかるのはあたり前と思ってる」っていう話をしてもらってるし、
変に申し訳ながって楽しめないのももったいないし、
葉月はもらえるものはありがたくもらおうと思った。
差し出されたプレゼントを受け取らないで突き返すのは失礼だ。

そんな経緯があっての今回のデートだった。

 

便宜上、この日のデートのことを「たなぼたデート」と命名してるんだけど、
そういうわけで本当は「たなぼた」じゃない。
「遠回しな脅迫デート」とも言えるし、
「そんなつもりじゃなかったんですけどねデート」とも言えるし、
「お言葉に甘えてデート」とも言う。

葉月的には
「本当にすみませんねぇ、蔵人さん。アイボの方がマシ、なんて思わないでくださいねデート」
って感じ。

 

 

さて、いろいろと考える割には楽しむと決めたら前向き一直線の葉月。
この日のデートのために用意したものは

キャスター付のお道具バッグ。

 

ソフトトランクにタイヤがついてるの、
今割と流行りで街でも旅行でもないのにこの手のバッグを持ってる人って多いでしょ。
いつものお道具バッグがだんだん重くなってきて毎回デートの翌日には腕が筋肉痛になるほどだし、
前回のデートでは
葉月が重いバッグを持ってるために蔵人さんに手を繋いでもらえなかったということが判明したので、
迷いなく購入することを決定。

1時間くらい、カバン屋さんで悩んだ末に、ちょっと大きめのを買った。
葉月は買う時に中を開けてみたりして、
カラッポのそのカバンが自分への責め具でいっぱいになっている光景を思い浮かべてじゅるじゅる状態になった。(笑)

う〜ん、早くこれを蔵人さんに見てもらいたいよぉ。
一緒にこのワクワク感を共有したいよぉ、などと思ってデートの当日を迎え、
葉月は逸る気持ちを抑え切れずにいつもより早く待ち合わせの喫茶店に到着してしまった。

 

でも、蔵人さんは登場して開口一番、

「大き過ぎないですか?」


蔵人さんの声

あ…、そうですかね?

でもでも〜、
これからいろんなお道具が増えていっぱいになっていくのを楽しむのもいいかなって。(上目遣い)

蔵人さんはあまりの大きさにちょっと目が点になってるみたいだった。
なんか…葉月ってやる気満々って感じ?
確かにこれね、一週間くらいの旅行でも行けるかなってくらいの大きさなんだけど…。

 

ということで、必要以上に大きなお道具バッグ(とほほ)を引っ張りながら、
葉月は蔵人さんの後をついていつものラブホに向かったのだった。

 

四輪キャスターで移動はラクラクよ♪

 

 

 

 

 

NEXT:マッサージ器…逝く

オセロ的「保護者ルーム」INDEXに戻る

裏葉月メニューに戻る