初診(後編)

 

 

「内痔核ですね」
先生はカルテに図のようなものを書き込みながら葉月にそう言いました。

「典型的な3時、7時、11時の位置にあります」
「3痔、7痔????」
なんのことだか全然わからない。

先生はパンフレットのような図を見せてくれて葉月に説明してくれました。
内痔核って直腸の中でもできやすい場所っていうのがあるそうなんです。
それはそのパンフレットによると
「上直腸動脈の枝分かれしたところ」
ということになっていて、
仰向けになって寝た時の肛門の位置を時計に見立てて(おへそ側が12時)
3時、7時、11時のところができやすい場所だとのこと。

へぇ〜〜っと思いました。
知らないことを教えてもらえるのって感動です。

痔の中でも一番多い内痔核で、できてる場所も「典型的」と言われると
自分がとっても「普通」で「珍しくない」と思えてなんだか安心します。(笑)

 

「内痔核というのは進行度によって1度から4度まであるんですけどね」
と、これまたイラスト入りの説明図を見せながら先生はそう言って、
「葉月さんのは4度まで行ってます」
と診断しました。

1度から4度まであることは受診前に予習済みでした。
でもいつも出ているわけじゃないので自己診断では3度だと思っていました。
まぁその差は大したことじゃありません。

 

それから先生のお話が始まりました。

「内痔核というのは放っておいてもガンになるとか、そういう危険なものではありません」
「はい」
「分類するために1度から4度という分け方をしていますけど
何度になったから手術しなくちゃいけないって決まってるものでもないんです」
「はぁ」

先生のお話では、患者さんが「治療したい」と思った時が治療時期なんだそうです。
4度になっていつも脱肛している状態であってもあまり気にならない人もいるし
逆に1度で痛みも見た目もまったく問題ないのに
出血が気になって治療する人もいる、ということです。

ただ、その進行度によって治療方法は変わってきて
軽いうちなら食生活の改善や投薬などである程度よくなるけれど
ひどくなってしまうと切ることになるんだそうです。

「3度以上が手術の対象です」
先生のお話はとてもよくわかる。

 

「それで、葉月さんの場合ですけどね」
「はい」

「痔核は放っておいて自然治癒するものではありません」
「はい」

「今後の方法としては2つあります」
「はい」

「1つはこのまま何もしないで一生痔と上手に付き合っていくという方法」
「はぁ」
このまま一生「痔〜ちゃん」と付き合っていくのは嫌だと思いました。

「そしてもう1つは」
「はい」
「思い切って痔を切り取ってしまうという方法です」
「なるほど」

 

おそらく、病院によってはここで別の選択肢も出されるのかも知れません。
でももしかしたらどこへ行っても切るしかないって言われたのかも知れません。
いずれにしろ、切ることを決めていた葉月にとっては
先生のこのお話で悩むことなく腹を決められたのでよかったと思っています。

 

今度はいくつか葉月の方から質問をしました。
手術の方法やリスク、術後の問題点など
ホームページには書かれていなかった疑問を聞いてみました。

「手術にはレーザーメスを使います。
手術そのものはそれほど難しいものではなく
まぁ研修医のような人間がやれば失敗もあるかも知れないですけど
ここではすべて私が行いますから技術的なことでのご心配は要りません」
自信満々のその言い方が、ちょっとカッコいいと思っちゃったりして。

「ただ、リスクのない手術はありえません。
麻酔は仙骨麻酔という最も安全と言われている麻酔ですが
100%安全と言える麻酔なんてありません」
と言ってる割には
「今までの私の何千例の経験の中で異常が出たことは1件もありませんけどね」

まぁ、「絶対に安全です」とは言えないだろうから
こういう言い方しかできないんだろうな〜って思いました。

 

「それともうひとつ、リスクということではないんですが」
「はい」
「レーザー治療は贅沢治療ということで保険の対象になりませんから
費用がちょっとかかってしまいます」
先生は少し申し訳なさそうにそう言いました。

「いくらかかるんですか?」
それが問題なんですよ。
保険の適用外だということは知っていました。
でも具体的にいくらくらいかかるのかということはわかりませんでした。

 

「術後のお薬の処方などで若干の上下はありますが」
「はい」
「こちらの金額になります」
と言いながら先生が見せてくれた料金表には、手術代や麻酔代や消毒のガーゼ代など
全部合計した金額が書かれていました。

 

 

174,000円!

 

ちょっと頭がクラッとしました。

17万かぁ〜〜〜〜!
保険が使えないから普通の治療より高いとは思ってたけど
葉月の中では「10万円くらいかな?」ってなんとなく思っていました。

保険の適用になる入院手術で一週間入院した人の体験談に全部で8万円だったって書いてあったので
多少高くても入院代はかからないんだし
まぁ10万くらいかなって予想してたんです。

 

「そういうことですので、よく考えて、
もし手術をご希望でしたらまたお越しください」
と先生は言って診察を終わろうとしました。

 

「いえ、もう決まってます。手術をお願いします」

葉月は一瞬でいろいろなことをクルクルッと考えて
先生にそう言いました。
先生は葉月のその決断の早さにちょっと驚いているようでした。

17万というお金をどこから捻出しようかと頭の隅っこで考えながらも
いくら考えても結論は同じだと思いました。
1週間でも1ヶ月でも「よく考えて」またここに来るのなら
今決めてさっさと話を進めてもらった方がいいと思ったんです。

 

「そうですか。それではですね...」
手術承諾書にサインをしたり
手術前の血液検査の準備など、具体的な手術の手続きの話になりました。

「いつ頃をご希望ですか?」
先生はカレンダーのような予約表を出して葉月に聞いてきました。

週に4日、手術の日が決まっていて、
1日に午前と午後、4人ずつまでしかできないそうです。
予約表には手術日に午前4人、午後4人の名前を書く欄があって
ぱっと見た感じ、その表は真っ黒に見えるほど患者さんの名前がぎっしり書かれていました。

葉月は仕事の締め切りのことを考えて、
「20日過ぎはどうでしょうか?」
と希望を言ってみました。

「あぁ〜、その頃はもういっぱいですねぇ」
先生は予定表を見ながら申し訳なさそうに言いました。
人気あるんだなと思いました。
1日8人で週に4日。
1週間で32人の手術をしているのに1ヶ月先まで予定はほぼいっぱい。

 

「それじゃ一番早く手術できるのはいつなんですか?」
逆に空いてる日を聞いてみました。
「え〜っと、一番早い日と言うと、ついさっき予約してた方が日にちを変更されて、
明後日に空きが出たんですけどね」
「あさって、ですか〜〜〜」

さすがに急すぎるな、と思いました。
葉月はお産以外でこういう「手術」というものをしたことがないんです。
心の準備ってものがあります。
でも20日過ぎがダメだとなると、また来月の締め切り前になってしまいます。
ずっと先の手術を待って1ヶ月以上も不安を感じながら過ごすのは嫌だなーとも思いました。

「それじゃ、明後日にお願いします」

こういうことは気持ちが変わらないうちにさっさとやってもらっちゃった方がいい。
葉月は「この即断力は凄いな」って自分で感心しました。(笑)
結果的に、この即断は間違ってなかったと後から何度も思うことになります。

 

とんとん拍子に話は決まって、その日のうちに手術前の検査。
心電図とレントゲンと血液を少し採りました。

心電図は、ほんの2〜3分だったように記憶してます。
検査をしてくれたお姉さんに
「こんな短い時間で心臓の何がわかるんですか?」
って聞いたところ、
「不整脈がないかとか、心臓の大きな病気がないかとか、そういうことですね」
って教えてくれました。

血液を採る時にも看護婦さんに聞いてみました。
「この検査の結果で手術ができないってことはあるんでしょうかね?」
「そんなことは滅多にないですけどね」
「そうですか」
「まぁそんなに難しい手術じゃないですから心配しなくても大丈夫ですよ♪」

 

ちなみに術後の診察の時にこの時の血液検査の結果をもらえました。
ALTとかASTとかLAPとか、何を調べてるんだか全然わからないのもあるし
白血球数、赤血球数、血小板数など日本語のものはわかるものもあります。
結果の数値の横には「基準値」が書いてあって
葉月の数値はどれも基準値内。
B型肝炎でもC型肝炎でもエイズでもないとのこと。
たまにはこういう検査をしてもらうのもいいかも知れないですね。

 

さて、話を初診の日に戻して
受付でその日の診察代と検査料を払って、手術当日の注意書きをもらいました。

当日は朝食は普通に食べて昼食は食べないで来てくださいこと。
でも水分補給だけは充分にしてきてくださいとのこと。
ゆったりした服装で来てくださいとのこと。
麻酔を使うので帰りは車の運転はできないとのこと。
その他いくつかの注意事項が書いてありました。

その注意書きを手に病院を出ながら
「なぁ〜んだか急激に話が決まっちゃったな」
って、夢を見ているみたいな気持ちでした。

 

あさってか...もう48時間もないんだな。

 

この急展開には自分でも驚いていました。(笑)

 

 

 

 

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